2025.06.11
テッペンまで駆け上がれ 「スカイライントレイル菅平アンダーアーマーカップ」


菅平高原(長野県上田市)をスタート&ゴールに、2207mの根子岳(ねこだけ)山頂をコースに組み込む「スカイライントレイル菅平アンダーアーマーカップ」。日頃のトレーニングの成果を10㎞、30㎞、50㎞の3つのコースで試す、トレイルランニングのレースである。
メインの会場となる「アンダーアーマー菅平サニアパーク」の標高は1303m。準高地の菅平は、真夏でも冷涼なため、ラグビーやサッカー、陸上競技の合宿の聖地として知られている。新緑に包まれた菅平高原を囲む山々で展開されるトレイルのレースは開催18回を迎え、多くのトレイルランナーを魅了し続けてきた。
その「スカイライントレイル菅平アンダーアーマーカップ」の前日、メイン会場内の陸上トラックでは、トレイルランナーのためのセッションが開催されていた。トレイルでの怪我予防と効率的なランニングを目指す、120分間の「コミュニティクラス」である。


会場となった「アンダーアーマー菅平サニアパーク」内の陸上トラック。同施設は、ラグビー日本代表などが合宿を行うメイングラウンドに加え、4面のグラウンド(すべて天然芝)などを有する。
アンダーアーマーが菅平で仕掛ける、さまざまなスポーツイベント
コミュニティクラスを企画・開催したのは、ボルチモアを拠点に世界展開するスポーツブランドのアンダーアーマー。レースの前日にトレーニングセッションを行うことで、2日間どっぷりトレイルランニングに向き合う“合宿の聖地”ならでは提案だという。
「菅平には、多くの大学の駅伝部や社会人のランニングクラブが訪れています。準高地の環境でトレーニングが行える高いポテンシャルがあるので、トレイルランニングのレース開催だけではもったいないと感じていました」
と語るのは、アンダーアーマーを日本で展開するドームの野田佳宏。自身もトレイルを走る、元ラガーマンのランナーである。野田を中心にアンダーアーマーは、菅平のポテンシャルの高さをもっと多くの人と共有したいと、トレイルランニングのみならず、さまざまなスポーツイベントを昨年から次々と仕掛けている。


アンダーアーマーを日本で展開するドームで、マーケティングを統括する野田。前年の「スカイライントレイル菅平アンダーアーマーカップ」では30㎞の部を走っている。
レース+トレーニングがセットの“トレーニング合宿”
「菅平には、準高地に陸上のトラックがあって、さらにオンロードやクロカンコースも備えています。陸上のアスリートに人気なので、シーズン初めのレースとセットの“トレーニング合宿”は、アンダーアーマーだからこそ提供する価値があります」(野田)
コミュニティクラスが行われたのは、陸上トラック内のふっかふかの天然芝のグラウンド。講師は、DAH(ドームアスリートハウス)の内田紘平さんだ。内田さんは、トップアスリートからアマチュアの愛好者まで、さまざまなニーズに応じたトレーニングを提供するパフォーマンスコーチである。
菅平を訪れるトレイルランナーのために内田さんが用意したテーマは“起伏に負けない強い走り”。競技力を高めるには、パワーやスピード、筋力が必要だが、それらをいきなり鍛えても、土台となる関節の動きやすさ(柔軟性)がなければ怪我に繋がる。


内田さんは、卓球の競技者として16年間活動し、現在はパフォーマンスコーチとして卓球選手のみならずさまざまなスポーツ領域でアスリートをサポートしている。
トレイルでの怪我を予防し、動きを鍛える
まずは関節の柔軟性を高め、可動域をコントロール(協調)させることで、パワーやスピード、筋力に繋げる。こうした「パフォーマンスピラミッド」の考え方に基づき、普段使っていない筋肉に刺激を入れ、動きを改善するための“気づき”を体得できるという。
「今回は、怪我予防とパフォーマンスアップという2つの目的でエクササイズを構成しています。今日の内容が、すぐに明日のレースを変えはしません。やった内容、そもそもの考え方を持ち帰って、今後に活かしてください」(内田さん)
太陽の光を存分に浴びてのエクササイズは、カラダの可動域を拡げ、柔軟性を高めるためのストレッチを中心としたモビリティ系からスタート。次いで、トレイルランニングに関わる筋肉にスイッチを入れるアクティベーション。休憩を挟んで、“動きを鍛える”をコンセプトに、大きなチカラをロスなく使いこなすランニングドリルなどが行われた。


コミュニティクラス参加者だけでなく、選手やその関係者が参加できる「前夜祭」も開催。ゲストには、スーパーウルトラランナーの飯野航さんに加え、トレイルランナーの山内菜摘さんや栗原孝浩さんが参加。翌日にレースを控えた選手たちは、“走る気持ちが高まる”ひと時を過ごした。
そして迎えた、レースDAY
初夏のカルフォルニアや南仏を思わせる澄んだ空気とシャープな日差しの下で、「スカイライントレイル菅平アンダーアーマーカップ」は幕を開けた。その30kmのカテゴリーには、前日のコミュニティクラスにも参加していた3人の選手の姿があった。
アンダーアーマーを日本で展開するドームの社員で、普段はオンロードを走る阿部優輝と内山元晴。そして内山のランニング仲間のモデル、星南(SENA)さんである。3人の目的は、過酷なアウトドア環境の下でのレースで、自社製品の性能を試すことにあった。
元大学野球部員という阿部は、大手スポーツ量販店の営業担当。猪突猛進な性格は営業向きだが、普段のレースでは前半に飛ばし過ぎて、後半は自滅することが多々だという。トレーニングで鍛え上げたカラダのムードメーカーは、トレイルランニング初参戦である。
ミッションは、アウトドア環境下での“製品テスト”
一方の内山は、フルマラソン3時間0分27秒という記録を持ち、前年もショートの部に参戦。仕事でも、ランニングのウェアとシューズのMD(マーチャンダイジング)を担当しており、トレイルでのレース経験こそ浅いが、ランニングへの理解と製品知識は深い。
内山のランニング仲間のモデルの星南(SENA)さんは、海外での登山の経験もあり、最近トレイルランニングの魅力に開眼したという。1型糖尿病の治療を行いながらアクティブなスポーツに挑戦する、文字通りのチャレンジャーである。
そんな3人が、「スカイライントレイル菅平アンダーアーマーカップ」で試すのは、新製品のARMORDRY(アーマードライ)という速乾素材のウェアと、オンロードの人気モデルのオフロード版となるトレランシューズのUAインフィニット プロ トレイルだ。


星南(SENA)/モデル・活動家・チャレンジャー、凸凹もへじ代表理事。18歳での1型糖尿病の発症を機に、病気への理解と社会的な認知を拡げる活動を展開。インスリン治療を続けながら世界一周を経てアフリカ大陸最高峰のキリマンジャロに登り、フルマラソンやトライアスロン、トレイルランなどにもチャレンジしている。
目指すは、根子岳2207m山頂
前置きが長くなったが、レースはまだ始まったばかり。上の写真は、スタートとなったアンダーアーマー菅平サニアパークから4㎞の地点。レタス畑を縫って、四阿山(あずまやさん)への長~い林道を上り、別荘地を抜けて、これから本格的な登山道が始まる。
登山道を上って下れば、ゴールまで1/3の菅平牧場のエイドステーション。水だけでなく、コーラやバナナのサポートも受けられる。内山、阿部、星南さんの順に、順調にエイドステーションを通過。「コーラが美味しいです。昨晩は爆睡して、朝からご飯2杯食べたので、体調は万全です」と星南さんも余裕の笑顔である。
エイドからは、菅平のシンボルともいえる「花の百名山」に数えられる根子岳(2207m)。山頂部にはまだ雪が残るため、高山植物はお預けだが、眼福の絶景が開ける。ガレて足場の悪い下山路を進むと、コースはスキー場エリアへ。一気に下れば約22㎞地点のエイドステーションである。


「トレイルの洗礼を受けました。トレイルランニングはランニングの延長ではなく、山登りなんだと学びました」(阿部)。「下りは苦手でしたが、同じペースで走っていた選手の走り方を真似ると、楽に速く走れたので、とても参考になりました。」(内山)
“心が折れた”激上り、そして感動のゴール
「新素材のARMORDRYウェア、汗をかいても肌に貼り付かず快適です。汗冷えもしません」とは阿部。「途中、沢を渉って靴が濡れたのですが、排水性の高いメッシュアッパーのおかげで、すぐに乾きました」と内山。フィールドテストも、レース同様に順調のよう。
エイドステーションからは、内山も阿部も“心が折れた”と語る激上り、ダボスの丘。スイスのダボスにある高原牧場に似ているために命名された丘陵で、ハイキングで訪れる人も多いのだが、コースの林道はハンパない斜度なのだ。
ダボスの丘を駆けあがっても、アップダウンはさらに続く。そして別荘地を抜けると、最後の下り。「アンダーアーマー菅平サニアパーク」のゴールゲートが選手たちを待っている。充実の時間を過ごし、ゴールを迎えた選手たちの達成感の笑顔にゴールは包まれた。


「あの、この、坂、さえ、登れ、ば……。ほんと、登り、が、苦手で……。ともかく、上を、見ないように……。(上りが終わった瞬間)あ、おー、わー、キレイ」(星南さん)
大切にしたいのは“ウエルカム感”
「来年、菅平を含む真田町(旧真田町、現在は上田市)と、スイスのダボスとの交流が50年を迎えます。さらに再来年は、菅平スキークラブが設立100年を迎えます。地元の上田市にとっても節目なので、多くの人に菅平の山々の魅力を伝えたいと願っています」
と語るのは、「スカイライントレイル菅平アンダーアーマーカップ」の野々山晴之さん。18年前に菅平のレースを立ち上げ、その後も全国各地のトレランイベントをプロデュースしてきた“先達”のひとりである。
「私たちのレースに参加される約2割が、新たにトレランを始められた方々です。そのほとんどが、トレランを競技としてではなく、自然を楽しむひとつの手段と捉えています。(他のレースのように)距離を伸ばすこともできるのですが、コースを逆回りにするなど変化をつけ、毎年参加しても飽きない工夫する方が大事だと考えています」(野々山さん)
野々山さんが大事にするのが“ウエルカム感”。今回の「スカイライントレイル菅平アンダーアーマーカップ」でも、コミュニティクラスや前夜祭、キッチンカーやサバス(移動式サウナバス)など、他のレースとは明らかに違う、高原リゾートのひとつの楽しみ方を提案している。




アンダーアーマー菅平サニアパークには、選手も使用できるシャワーも備えている。であればと「サバス(移動式サウナバス)」を招致。トレイルで疲れたカラダに、サウナ。菅平のウエルカム感、全開なのである。
来年の「スカイライントレイル菅平アンダーアーマーカップ」の詳細な計画は、まだまだこれから。地元と主催者、そしてアンダーアーマーとタッグを組み、新たなトレイルランニングの“ウエルカム感”を提案するイベントになることを期待したい。
上田市とアンダーアーマーが取り組む、「アンダーアーマー菅平サニアパーク」および「アンダーアーマー菅平アリーナ」の活動のレポートは、今後も随時、発信していきます。
取材・文/大田原 透
撮影/池田吉則・花岡秀崇
今回のレース中、突発性疾患にて亡くなられた選手のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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