2024.11.29
マラソン大会運営者に聞く、“続ける秘訣”(長野県上田市「古戦場ハーフマラソン」)。

上田古戦場マラソン上田古戦場マラソン

全国各地で行われる、さまざまな市民マラソン大会。親子で参加する3㎞、中高生や初心者にも人気の5㎞や10㎞、挑戦感溢れる21㎞超のハーフマラソン、そして42.195㎞のフルマラソンなど。もちろん距離だけでなく、地域ごとの特色を出したり、名所を巡る、特産品がお土産など様々な趣向が凝らされ、地域の大切なイベントとして根付いている。

大都市からのアクセスが良く、コースも整備されている大会は、多くのランナーが集まり、高いレベルのレースが繰り広げられる。しかし、もちろんそんな大会ばかりではない。エリアに住む人々の健康作りのキッカケとして、はたまたスポーツ少年団や学校のクラブ、職場や地域の仲間の交流の場として、地域の人々に愛される大会が星の数ほどあるのだ。

「上田市の『古戦場ハーフマラソン』は、今回で38回を迎えました。コロナ禍の前は2000名以上が参加しておりましたが、今回は1500人ほどです。それでも上田市内だけでなく、近隣のエリアや県外からもご参加くださり、元気に走っていただいています。地域の活性化も狙いながら、さらに盛り上げていくことがこれからの課題だと思っています」

上田古戦場マラソン
上田古戦場マラソン

「古戦場ハーフマラソン」大会実行委員長の母袋創一さんは、元上田市長さん

戦国の時代の古戦場跡で行われるマラソン大会

と語るのは、「古戦場ハーフマラソン」の実行委員長、母袋創一さん。母袋さんは、上田市の元市長。アイデアマンとしてさまざまな施策を行った、地元の名士のひとりである。「古戦場ハーフマラソン」は、1978年の第33回長野国体の開催を契機に、上田市でもスポーツの取り組む機運が高まり、1987年に第1回大会が開催されたのだとか。

「この場所は、戦国時代に武田信玄の侵攻を村上義清が防いだ古戦場(上田原古戦場)です。私は当初からは関わっていないのですが、この大会を歴史とロマン溢れる大会として、選手の皆さんの競技力の向上、地域の方々の健康増進、さらに生涯スポーツに繋げるべく開催を決めたとお聞きしています」(母袋さん)

コースは、古戦場公園の競技場をスタートゴールに、信濃川水系の明るくのどかな田園風景を走る。信濃の里の秋を存分に堪能しつつ、距離も3~21㎞超のハーフまでなので、走り終わった後に、上田城址や別所温泉、地元の松茸料理などをたっぷり楽しめるのが魅力だ。

上田古戦場マラソン
上田古戦場マラソン

「古戦場ハーフマラソン」は、上田盆地の中心部、塩田平ののどかな田園風景を走る。

規模を追うのではなく、スポーツと触れる機会を増やす

「“心身ともに健康状態を保つに、日常のスポーツは欠かせない”という意識付けが出来れば、もっともっと参加者も増えて活発になります。ただし、単に『古戦場ハーフマラソン』の規模を大きくすることだけを考えてはいません」(母袋さん)

母袋さんが強調するのは、現在の上田市は、真田、丸子(まるこ)、武石(たけし)に、旧上田市の4市町村が合併した点。以前紹介した菅平のトレイルランニングをはじめ、丸子での夏のキャニオニングレース、真田や武石での駅伝など、上田市の地区ごとに特色あるランニングイベントが開催されている。

「今までそれぞれの地域でやったマラソンや駅伝大会などは、リスペクトしながら残し、そして活かすことが大切です。『古戦場ハーフマラソン』に集約して規模を追求したりせず、ひとりでも多くの方がスポーツへの接点を増やすことが何より大切だと考えているからです」(母袋さん)

RUNNER’S VOICE

上田古戦場マラソン
上田古戦場マラソン

10㎞の部に参加の長川原龍二さん(50代)、市内在住。医療器械のメンテナンスがお仕事。普段の運動は3㎞のウォーキングがメインで、今シーズンはお隣の佐久平や松本のランニングイベントに参加予定だとか。

「長野は海なし県なので、海の見えるマラソン大会に出てみたいですね。普段クルマで通勤しているので、『古戦場ハーフマラソン』では、歩いたり走ったりしないと分からない田んぼの景色や、稲刈りの時期の匂いなど、地元を再発見できるのが魅力です」

上田古戦場マラソン
上田古戦場マラソン

ハーフの部に参加の南波直美さん(50代)は、上田のご出身。現在は、長野県の中野市に在住だそう。本日のハーフの記録は1時間29分37秒、年代別1位(女子総合2位)。普段は週4回ほど、早朝5時などに走っているのだとか。

「走るとモヤモヤが無くなるので、健康維持と気持ちをリセットするために走っています。フルマラソンの自己ベストは3時間5分なので、サブ3が夢ですね。上田って、ワヤワヤしていないし、ローカルに触れられるので(『古戦場ハーフマラソン』)おすすめです!」

上田古戦場ハーフマラソン
上田古戦場ハーフマラソン

ハーフの部に参加の炭谷さつ子さん(30代)。千葉ご出身で、上田市内在住。子どもに関する福祉関係のお仕事をされているのだとか。ランニングはダイエットのためで、「古戦場ハーフマラソン」へは初参加。

「普段は7㎞ほど、ちょこちょこ走っています」と炭谷さん。今回、背中に大きく189の電話番号が記された「子ども虐待防止ながのオレンジリボン」のビブスを着たメンバーとともに参加された。

上田古戦場ハーフマラソン
上田古戦場ハーフマラソン

上田と言えば、真田一族。しかしこの古戦場は、武田信玄の侵攻を村上義清が防いだ戦いの舞台だ。

ランニングも健康も、日々の積み重ねから

「上田市民へのアンケートで分かったのが、30代は、40代や50代に比べて健康度が低いという点でした(令和3年「第二次上田市スポーツ推進計画」)。30代は、結婚や子育て世代なので、スポーツなど運動参加率が上がらないことが考えられます」

と語るのは、上田市役所の塚田さん。「古戦場ハーフマラソン」の運営にも携わる、上田市のスポーツ推進の旗振り役だ。塚田さんは、30代のスポーツ参加率の向上が、その後の年代の健康度の引き上げに繋がることを期待している。

「『古戦場ハーフマラソン』には、親子や子どもたちの参加枠も設けられているので、子育て世代も子どもと一緒に気軽に参加できます。40代、50代の健康度が高いのは、上田市のスポーツ少年団の参加率が高いことも関係しているかもしれません。コーチなどの指導者や運営に携わる世代なので、意識が高いことも考えられます」(塚田さん)

上田古戦場ハーフマラソン
上田古戦場ハーフマラソン

上田市役所の文化スポーツ観光部スポーツ推進課の塚田瑶平さん。

アンダーアーマーと上田市が、“スポーツのきっかけ作り”を提供

「今回、『古戦場ハーフマラソン』の開催に向けて、子どもたちを対象にした『かけっこ教室』をアンダーアーマーが開催してくれたのも、とても有意義でした。幼い頃の貴重な体験は、大人になっても影響を及ぼしますから。せっかく菅平の施設とのネーミングライツがあるので、今後もアンダーアーマーとコラボできることを期待しています」(母袋さん)

母袋さんが語る菅平の施設とは、スポーツ合宿の聖地である「アンダーアーマー菅平サニアパーク」と「アンダーアーマー菅平アリーナ」。2023年より始まったアンダーアーマーのネーミングライツの取り組みは、菅平のみならず市全体を巻き込み、「古戦場ハーフマラソン」での「かけっこ教室」のように、上田市民とこのエリアの人々のスポーツ参加のきっかけ作りに貢献しているのだ。

上田古戦場ハーフマラソン
上田古戦場ハーフマラソン

3㎞の親子の部も行われ、地元の野球チーム「上田リーグ」の皆さんも3㎞の部に参加

アンダーアーマーが、上田市とともに歩み出した

「菅平には、月に2~3回のペースで来ています。マラソン大会だけでなく、ラグビーなどの部活動対象の販売会などでも訪れます。上田市を盛り上げることが目的なので、地元のお土産物店に記念グッズを置いてもらうようなこともしていますよ」

と語るのは、アンダーアーマーを日本で展開するドームの伊藤奈月。伊藤は、Wリーグ「日立ハイテククーガーズ」のバスケットボールプレーヤーという経歴を持つ元アスリート。アスリートと同じ目線で自社の商品の魅力を語れることに喜びを感じているという。

「まだ具体的ではないのですが、上田市の学校との取り組みができたら……とも考えています。部活のユニフォームで人気度の底上げをしたり、女子のカラダに関する講習や、私自身もバスケットボールの講習ならできるので(笑)、もっともっと地域に貢献できたら嬉しいですね」(伊藤)

 

上田古戦場ハーフマラソン
上田古戦場ハーフマラソン

元Wリーグのバスケットボールプレーヤー伊藤(左)と、
ラクロスの社会人チームでプレーする現役アスリートの岩崎(右)。自慢のシューズとスポブラをアピール。

2024年春にドームに入社したばかりの岩崎沙也加も、毎月のように菅平に通うメンバーのひとり。菅平を訪れる度に、地域の人たちの地元愛とともに、アンダーアーマーを身近に思ってもらえていることを肌で感じるという。

「それでもアンダーアーマーは、まだ子どもたちには広がっていないと感じています。『古戦場ハーフマラソン』での販売会だけでなく、高校などの部活にも伺って、スポーツブラなどに関する知識とともに、パフォーマンスを高めるウェアの良さを伝えられたらと思っています」(岩崎)

子どもたちのスポーツ参加を応援する「1% For The Athlete」

上田古戦場ハーフマラソン
上田古戦場ハーフマラソン

「古戦場ハーフマラソン」のプレイベントとなった「かけっこ教室」は、アンダーアーマーの「1% For The Athletes」というプロジェクトにより開催された。実は、「1% For The Athlete」の活動を支えるのは、私たちのような市井のアスリートたちだ。

「1% For The Athlete」は、アンダーアーマーのメンバーシッププログラム「UAリワード」のメンバーが、アンダーアーマー製品を購入すると、その金額の1%をアスリートに還元するというプロジェクト。

「1% For The Athlete」は、子どもたちのかけっこ教室などのスポーツ振興だけでなく、若き次世代アスリートの支援、さらに女性アスリートのためのカラダに関する講習会などの啓蒙活動も行われている。

まもなく菅平は、白銀のウインターシーズンを迎える。スキーヤーやスノーボーダー、そしてクロスカントリースキーヤ―の天国となる菅平に、ラグビーやサッカーのアスリートたちの声が再びこだますのは、遅い春を待たねばならない。

上田市とアンダーアーマーが取り組む「アンダーアーマー菅平サニアパーク」そして「アンダーアーマー菅平アリーナ」のレポートも、菅平の遅い春の訪れとともにお伝えしよう。

 

取材・文/大田原 透 撮影/池田吉則(日広)

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