2024.11-11
菅平を女子サッカーの聖地に 「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18」開催。
SOCCER

標高1300mを超える準高地、スポーツ合宿の聖地である菅平高原(長野県上田市)の秋は短い。その10月後半、3日間に亘り、菅平のメイングラウンドである「アンダーアーマー菅平サニアパーク」で、女子サッカーのフェスティバル(イベント)が開催された。

「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18」である。この年齢層の女子のチーム数は、男子の10分の1、400ほどと言われており、各県のチーム数や強豪校が限られるため、地域を超えた交流戦の機会は今まで乏しかったという。こうした状況に対して、交流戦や体験、学びを提供しようという試みが、「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18」なのである。

集まったのは、東日本エリアの高校とクラブチームが8つ。いずれも県大会の1位に肉薄する実力を持つチームたち。いわば、逆境を跳ね除けてトップを目指す“アンダードック”と言えるチームばかりだ。参加の8チームには、3日間に亘るトーナメント戦に加え、選手が活躍できる場を増やすフレンドリーマッチ、走りを鍛えるスプリント講座、女性アスリートのカラダやスポーツブラの知識を得る講座と盛りだくさんな内容が提供された。

第1回の「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP(U-18)」に参加したのは、聖和学園高等学校(宮城)、ちふれASエルフィン埼玉マリ(埼玉)、帝京長岡高校(新潟)、帝京第三高等学校(山梨)、日本航空高等学校(山梨)、ふたば未来学園高等学校(福島)、前橋育英高等学校(群馬)、三浦学苑高等学校(神奈川)の8チームだ。

第1回の優勝を飾った聖和学園高等学校に、密着レポート。

結果を先に書いてしまうと、第1回「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18」を制したのは、宮城県の聖和学園高等学校だ。プレーヤーの個人技を磨き上げることを重視し、生徒の自主性を重んじるサッカーに定評があり、2023年インターハイでは準優勝、全国大会優勝4回という実力を誇る名門女子サッカーチームである。しかし近年、聖和学園は同じく宮城県下の常盤木学園に惜敗を繰り返していたという。

「私たちが『UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18』に参加した理由は、今回参加した1、2年生の育成強化です。実は今、3年生が公式戦である東北リーグを戦っています。スケジュール的にも1、2年生が主体のチーム開きを行える良いタイミングでした」

と語るのは、聖和学園高等学校の女子サッカー部顧問の佐々木好人先生。佐々木先生自身キーパー経験を持つサッカー指導者で、今回はチームの監督が東北リーグに帯同しているため菅平に赴いたという。しかし1、2年生チームの監督を務めたのは、佐々木先生ではなく2年生の佐野美尋さん。初日に足首をねん挫したため、急きょ佐野さんを抜擢したという。

聖和学園高等学校の女子サッカー部顧問、佐々木好人先生。チーム監督の曽山加奈子さん(2013年なでしこジャパン選出)とともに、チームの運営に携わっている(マネージメント担当)。

生徒の自主性を重んじ、一丸となって勝利を目指す。

「今回参加したもう一つの理由は、サッカーの土台となる人間教育として、関わってくれている大人の存在を知ること。それがサッカーを超えた彼女たちの将来にも繋がると考えています。交流戦だけでなく、女性ドクターによる女性アスリートのカラダの悩みなど、話が刺さっている生徒がたくさんいたメリットも、この大会に感じています。そうしたことの一環として、今回は2年生の佐野さんを監督にしました」(佐々木先生)

準決勝と決勝が行われる前の晩、生徒たちは自分たちでミーティングを開き、監督役の佐野さんを中心に、ひとりひとりが向き合い、深夜までかかって出場メンバーを決めたという。東北リーグを戦う3年生の先輩たちのためにも、これから新しいチームを作る自分たちが負けるワケにはいかなかったのだ。

「昨晩はメンバー全員と、なぜ試合のメンバーを選んだ理由を含めてみんなと話し合いました。試合の入りから点を取ろうと話していたので、それができたのは優勝できたことと同じく嬉しかったです。一番きつかったのは、帝京長岡戦の最後でした。何回も攻め込まれてピンチになってしまいましたが、守り切れて本当に良かったです」(佐野さん)

聖和学園高等学校の女子サッカー部の佐野美尋さん(2年)。初日に足首をねん挫し、監督役を任されることになった。

将来はスポーツドクターになりたいと語る佐野さん。高校で全国を制覇、サッカーをやり切って医者を目指したいという。そんなしっかり者を監督にした佐々木先生の意図も、優勝後に佐野さんの話を聞くと、さもありなんと思えてくる。

「スプリント講座や女性アスリートのための講座など、サッカーのことから、日常生活まで学びになった大会でしたので、感謝しています。私自身も楽しかったので、チームとして来年も出場したいと感じました」(佐野さん)

「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18」を主催したのは、アンダーアーマーを日本で展開するドーム。ブランドマーケティング部の部長であり、自身もサッカープレーヤーでもある山脇龍太は、このフェスの開催の価値を次のように語る。

アンダーアーマーのブランド全般を統括する山脇。アンダーアーマーは、女性にとってベースレイヤーとなるスポーツブラを日本で開発。そのブランディングの指揮を担う。

「なでしこジャパンが世界一になって盛り上がっているように思われますが、女子サッカーを取り巻く環境は、それ以前と大きく変わっていません。強豪チームに選手は集まりますが、地元に女子サッカーチームがそもそも無かったり、男子に比べて大会の機会が圧倒的に少ないのが現状です。女子サッカーのフェスティバルとして『UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18』を育てることに価値があると感じています。」(山脇)

このフェスの開会式で、主催者として挨拶したドームのコンシューママーケティング部の阿部敏も、高校アスリートへのフォーカスを増やすなかで、女子サッカーへのサポートの必要性を痛感したという。そこで、この大会の運営費用をアンダーアーマーが運営する「1% For The Athletes」で賄うことに決めたという(「1% For The Athletes」については後に詳しく紹介しよう)。

「アンダーアーマーは、上田市と合宿の聖地である菅平を盛り上げる活動を行っています。ラグビーだけでなく、サッカーの方々にもしっかり訴求して、菅平を特別な場所だと感じて貰いたいと考えています。100面を超える天然芝グラウンドや充実の宿泊施設などの菅平の環境を活かし、女子サッカーの聖地と言われるように育って欲しいですね」(阿部)

「女子サッカーのアスリートに、学びの場、体験の場を提供したい」と語る阿部。菅平のメイングラウンドである「アンダーアーマー菅平サニアパーク」とアリーナ―「アンダーアーマー菅平アリーナ」のネーミングライツを含め、上田市との取り組みを統括している。

秋晴れの下、高校生たちの熱戦が繰り広げられる。

ということで、第1回となった「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18」。最終日の準決勝での聖和学園の相手は、帝京長岡高校(新潟)である。1、2年生が主体の聖和学園に対し、帝京長岡は3年生のレギュラーを含むフルメンバーによる布陣となった。

帝京長岡は体格も大柄で、スピードも速い。前半早々、押されながらも聖和学園はコーナーキックから74番佐藤実玖さん(2年)がゴール。ハーフタイムでは90番伊藤花恋さん(2年)が「もっと聖和らしくいこう!」と仲間を鼓舞する。

後半、もちろん帝京長岡も黙ってはいない。怒涛の帝京長岡の猛攻に、聖和は苦境に立たされる。それを防いだのは長身の88番キーパー福田知未さん(2年)。野球とサッカーの二刀流で培った鉄壁の守備で守り切り、1-0で聖和学園が勝利を収める。

3年生を含むフルメンバーで猛攻を仕掛ける帝京長岡に対し、聖和学園は1、2年生チームで臨み、激しい攻撃に耐え切ってカウンターを仕掛け勝利する。

続く決勝戦の相手は、日本航空高等学校(山梨)。顧問の佐々木先生は一切ゲームに口を挟まず、終始試合をじっと見守る。立ち上がりこそ航空高校が押すが、徐々に聖和学園が自分たちのサッカーを取り戻し、前半11分で74番佐藤実玖さん(2年)がシュート。

そして、混戦から71番木村かのさん(2年)が2点目を決める。迎えた後半21分、航空高校が1点を戻し、アディショナルタイム3分。見事、聖和学園が2-1で守り切り、本大会の優勝を飾るのだ。

「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18」の初代得点女王に輝いたのは、聖和学園74番佐藤美玖さん(2年)。胸トラップやヘディングなど卓越した技術を持ち、将来の夢はプロサッカー選手と語る佐藤さんは、この日17才の誕生日を迎えた。

3日間で4つのゴールを決めた佐藤美玖さん。聖和学園のオリジナリティ溢れるサッカーと「ロイヤルローズピンク」のユニフォームに憧れて入部する生徒は多い。

「意識したのは、チームに流れを持ってくるシュートです。キツイと感じたのは、今日の帝京長岡戦ですね。攻め込まれる時間が長かったので、一致団結して耐えてカウンターを仕掛けました。スプリント講習でも、意識できるポイントをたくさん学べました。前に流れて走る時に、“空き缶を潰すように”という意識を知ったので、速くなった気がします(笑)」(佐藤さん)

MVPに輝いたのも聖和学園、90番の伊藤花恋さん(2年。普段の公式戦では10番)。伊藤さんは、日テレ・東京ヴェルディメニーナから聖和学園に進み、将来は日本代表に入り世界でプレーをすることが夢だと語るだけあり、意識も高くスキルも際立っている。ボールを運ぶ熱いハートも持ち合わせたプレーヤーとして、全力でグラウンドを駆け抜けた。

「最後の試合の2点目のアシストができたことは、一番嬉しかったです。いい感じの崩しで決められたので良かったなと思っています。この1点で、チームも気持ち的に余裕ができましたし。個人的にも、ラボ―ナとかエラシコとか自分の技術も出せました」(伊藤さん)

MVPに輝いた伊藤花恋さん。決勝前日の晩のミーティングは、深夜まで3回に及んだという。「ほとんど眠れませんでした(笑)」と朗らかに語ってくれた。

ともに戦い、ともに学ぶ、選手たちの気持ちを揺さぶった3日間が終わる。

今回は1、2年生の底上げとして大会に臨んだと伊藤さん。今日の優勝を自信に繋げ、11月からの新人戦優勝のための通過点にしたいとも語る。新人戦を優勝し、来年のインターハイ予選のシードを取れることを目指すという。

「今回の3日間では、普段の部活動で教わらない、カラダの動かし方やメンタルや病気のことなどメッチャ勉強になりました。聖和はランニングにもチカラを入れていますが、怪我も多いので、スプリント講座で、走り方のコツや、怪我の原因が理解できました。これからは縄跳びで、足の幅や置き方、骨盤の立て方を意識したいと思いました」(伊藤さん)

短い菅平の秋の最後を彩った「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18」。全国各地から菅平に集った3日間は、あっという間に終了となった。若きアスリートたちのこれからの成長と活躍、そして彼女たちが切り拓く豊かな人生に期待しよう。

体験できるサッカーフェス「スプリント講座」

サッカーの競技力向上に欠かせない、スプリント。「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18」では、特別講師にスプリントコーチの秋本真吾さんを迎え、ランニングの基礎を学ぶ講座が設けられた。2012年までプロの陸上選手だった秋本さんは、200mハードルのアジア最高記録保持者。Jリーガーやプロ野球選手などの指導でも定評がある。

「サッカー選手の多くは、骨盤が前に傾く傾向があります。骨盤が前傾すると、地面を蹴ってしまい、早く脚が疲れたり、ふくらはぎが攣ってしまったりします。カラダを前に倒すのではなく、頭から1本の棒が突き刺さっているイメージを持つことが大切です」(秋本さん)

秋本さんが生徒たちに伝える言葉は、ストレートで淀みがない。正しいフォームは、まっすぐ立って腰に手を当てた際に、手のひらがまっすぐ下を向く状態。女子のサッカー選手に多いのは、手の平が少し後ろを向く(骨盤前傾)だそう。

「正しい腰の位置で、ゆっくり足踏みすれば、腿を高く上げやすいはずです。皆さんのなかには、体力不足で走れないのではなく、フォームが悪いために効率が落ちて疲れてしまう方がたくさんいます。カラダの使い方だけで、変えることができるのです」(秋本さん)

秋本さんが薦めるのは、その場ケンケンや、縄跳び(エアでも可)。着地位置をカラダに覚えさせ、着地時の足の突き方も修正できるという。これに正しい腕振り(おへそを動かさず、腕を大きく振る。ポイントは指先で、カラダの前では指先を上に、後ろでは指先が下を向くのが良いのだとか)を加えるだけで、スプリントは確実に向上する。

「スポーツは、すべて土台が大切です。面白くない、つまらない、疲れる練習の積み重ね、誰もがやりたくない練習の積み重ねを、続けるか続けないか……。スポーツは全て土台です。今日1時間講習を受けただけでは、いきなり速くはなりません。是非チームに持ち帰って、続けてください」(秋本さん)

学びのあるサッカーフェス「女性アスリート講座」

「女性アスリート講座」の特別講師を務めたのは、長野県千曲市のさわらび内科クリニックの淺野有紀先生(「AC長野パルセイロ」チームドクター)。淺野先生は、2015年の陸上日本選手権100m2位という成績を持つ元アスリートである(旧姓宮澤)。

淺野先生は、中学生の時から全国レベルの実力を持ちながらも、高校では体調不良でインハイに出場できなかった経験も併せ持つ。この講習を通じ、同じくアスリートである生徒達に向けて、競技者と医師の二足のわらじで結果を残してきた、淺野先生の人生そのものにも興味を持ってもらうことを主催者側は意図していた。

「今回、高校生の皆さんにお話しするお話は2つ。ひとつは私自身、中学から高校にかけて、筋肉や骨などのカラダから、摂食障害というメンタルまで、さまざまなトラブルを経験しました。その経験を、改めて医師としての知識を基づいてお伝えします。そしてもうひとつが、女性アスリートとして気を付けたいトラブルの基本的な知識です」(淺野先生)

淺野先生が強調するのは、正しい知識を得た上で、周囲(の大人)に助けを求めること。監督やコーチや難しければ、トレーナーや学校の保健室の先生など、少し違った立場で関わる大人に話すことだという。

淺野先生が携わる現在の地域で診療でも、若い女性たちのカラダの不調に対し、カロリーの総量や特定の栄養素に着目するのではなく、その人の体質に合った食材や調理法に目を向けるよう、日々アドバイスを行っているという。

アスリートが支え合うサッカーフェス『1% For The Athletes』

「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18」の運営に関わる費用は、アンダーアーマーの『1% For The Athletes』というプロジェクトが担っている。この『1% For The Athletes』を支えているのは、アンダーアーマーのメンバーシッププログラム「UAリワード」のメンバーたち。そう、我々アスリート自身なのだ。

「UAリワード」のメンバーになってアンダーアーマー製品を購入すると、その金額の1%をアスリートに還元するというプロジェクトが『1% For The Athletes』。女子サッカーなどの次世代アスリート支援だけでなく、子どもたちのかけっこ教室などのスポーツ振興、女性アスリートのためのカラダに関する講習会などの啓蒙活動なども行われている。

「UNDER ARMOUR WOMEN’S SOCCER CUP U-18」の開会式で、主催者を代表して挨拶したドームのコンシューママーケティング部の阿部敏も、今回の取り組みについて次のように語っている。

「アンダーアーマーの『1% For The Athletes』を通じて、これからもアスリートたちが競う場の提供や、正しい知識を学ぶ場の提供、そして正しい知識に基づいたサービスや製品を体験する場を設けていきたいと考えています」(阿部)

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上田市とアンダーアーマーが取り組む、「アンダーアーマー菅平サニアパーク」および「アンダーアーマー菅平アリーナ」の活動のレポートは、今後も随時、発信していきます。

 

取材・文/大田原透

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