2025.07.26
“聖地”の芝を護り育てる男たち。@「アンダーアーマー菅平サニアパーク」


右)櫻井元樹さん:「アンダーアーマー菅平サニアパーク」の維持管理を担うNPO「スポーツリゾートすがだいら」の芝草管理技術者。グラウンドのみならず公園内の植栽の管理を担当。
左)下平哲さん:「アンダーアーマー菅平サニアパーク」所長。NPOの櫻井さんたちと連携し、“聖地”菅平を象徴するグラウンドの芝を護り育て、次世代へ引き継ぐ。
スポーツ合宿の“聖地”菅平(すがだいら)。長野県上田市の菅平高原は、標高1400mを超える準高地に位置し、ラグビーやサッカー、陸上競技など多くのアスリートたちの研鑽の日々を見守ってきた。その菅平の象徴ともいえる存在が、“太陽に近い”グラウンドと名付けられた「菅平サニアパーク」である。
2024年の春には、スポーツブランド〈アンダーアーマー〉のサポートが決まり、アスリートへのサポートをさらに充実させる諸施策をスタートさせている。その「アンダーアーマー菅平サニアパーク」を一度でも訪れたことがあれば、夏の日差しに輝き、高原の風にそよぐ青々と繁る芝草を思い浮かべるはずだ。
手入れの行き届いた天然芝は、グラウンドのみならず、スタンドや休憩スペースにも敷き詰められ、訪れる人々が“聖地”に抱く心象風景のシンボルとして印象づけられる。菅平に100ほどもある天然芝のグラウンドとともに、刈られたばかりの青草の匂い、倒れ込んだ時の軟らかでヒンヤリとした感触が、カラダの奥底の懐かしさの記憶となるのだ。2025年には軽井沢(長野県)で、世界30か国500名が集う「第15回国際芝草学会」が開催され、その見学コースには「アンダーアーマー菅平サニアパーク」が組み込まれている。
ということで、上田市とアンダーアーマーのアスリート支援をレポートする本企画。今回は“聖地”の芝草を護り育てる人々にフォーカスをあてる。


「10年以上前のサニアパークのグラウンドは、課題が山積していました」と下平さん。
夏の合宿シーズンに、グラウンド利用が密集する
「菅平の厳しい気候風土で、芝を護り育てるために、NPO『スポーツリゾートすがだいら』の皆さんと10年以上取り組んできました。学生たちが夏休みの合宿期間は、ほぼ密集してグラウンドの利用があるため、芝草をきちんとメンテナンスし、養生する必要があります。芝を護り育てる、地元のスペシャリストとの協力が欠かせません」
と語るのは、「アンダーアーマー菅平サニアパーク」の所長を務める上田市役所の下平哲さん。きれいに刈り込まれたメイングラウンドで、菅平の芝草のスペシャリストである櫻井元樹さんとともに、おふたりの話を伺っていくことにしよう。
「芝草のスペシャリストである櫻井さんから要請は、施設の管理運営側としても、最大限に尊重し受け入れるようにしています。でないと、日本代表も訪れて練習を行う『アンダーアーマー菅平サニアパーク』のクオリティを保てませんから」(下平さん)


「アンダーアーマー菅平サニアパーク」のメイングラウンド。同パークの利用時間:9:00~18:00(7月20日~8月31日は8:00~18:30)
休園日:毎週火曜日、11月1日~4月28日(7月1日~9月16日は無休)。詳細はこちら
天然芝は、怪我が少なく、しかも涼しい
「アンダーアーマー菅平サニアパーク」には、メインと4面のサブグラウンドに加え、400mの陸上トラックもあり、さらに公園としての機能も併せ持つため、芝草と植栽の管理には常に2~3名の人員を必要とする。
「“いい芝だね”とか“きれいに管理している”って言われるのは、純粋に嬉しいですね(笑)。天然芝は怪我が少なく、人工芝に比べて2~3度涼しいと言われています。天然芝のグラウンドで、思いきりスポーツを楽しんで欲しいと願っています」
と語るのは、先ほど紹介した菅平の芝のスペシャリストである櫻井元樹さん。櫻井さんによると、芝の管理で一番大切な作業は、芝の刈り込みなのだとか。通常でも週2回。梅雨時は良く伸びるので3回に増やすという。


菅平で育ち、菅平の自然のなかで暮らす櫻井さん。4人の子どもの良きパパでもある。
芝の体力を考慮し、夏場は30㎜でカット
「刈り込む高さは、通常は23㎜です。でも夏の合宿シーズンは、芝自体の体力を持たせるため30㎜に抑えます。芝は、刈り込むことで根が張り、横に拡がってきれいな面を作ります。しっかり根が張っていれば、雨の日の試合でも芝は荒れませんし、他の草も生えません」(櫻井さん)
過去には、ある監督から、18㎜に刈り、しかも水でビジョビジョに濡らすオーダーもあったという。さすがに芝が痛み過ぎるので断ったというが、「アンダーアーマー菅平サニアパーク」の良質な芝には、さまざまな期待が寄せられるのだ。
「芝には肥料が大切で、しっかり与えないと言うことを聴いてくれません。肥料を与える頻度は1か月に1回ほど。1回の量は少なめ(とはいえ2t!)にして、芝の顔色を窺っています(笑)」(櫻井さん)


「スタンドの芝も、グラウンド同様に週2回刈り込みます」と櫻井さん。カットの長短の調整は、タイヤの高さを変えて行う。
サッカーは硬め、ラグビーは軟らかめ?
芝の管理で次に大事なのは、きちんと水平が取れて、いわゆる“不陸(ふろく)”調整ができていることだという。グラウンドがボコボコだとカラダへ負担も大きく、生育も不均衡になるため、砂を播くなどをして、きれいな面を作るのだとか。
「適度な硬さも大切です。サッカーは硬め、ラグビーは怪我の予防にもなるので軟らかめを好みます。グラウンドの芝を軟らかくする時は、根をほぐしたりして密度を緩めます。反対に硬くする際は、砂を入れてローラーなどで圧(転圧)を加えます」(櫻井さん)
「アンダーアーマー菅平サニアパーク」では、普段はラグビーの使用が多いので、調整は軟らかめだとか。こうした天然芝のグラウンドが菅平高原には100ほどもあり、(程度の差こそあれ)常にきちんと管理され、いつも青々と繁っている。


右)肥料は、チッソと塩酸カリウム、苦土石灰を混ぜて使用する。
左)芝の種は3種混合(ブルーグラス、ペレニアルライグラス、トールフェスク)や、ブルーブラスの改良種の配合が多く含まれる2種混合種も使われる。
よいグラウンドには、人が集まる
「よいグラウンドには、やっぱり人が集まります。なので、グラウンドを管理している民間の施設(菅平の場合、ホテルなど宿泊施設が保有)も、もっと良くしたいと考えています。地元なので私たちも相談を受けますし、芝草の病気に一緒に対応することもあります」(櫻井さん)
「アンダーアーマー菅平サニアパーク」は、さまざまな意味でスポーツ合宿の“聖地”を象徴する存在と言えよう。では、夏のシーズン以外で“聖地”の象徴ともいえるグラウンドの芝を護り育てるには、どのような苦労があるのだろうか。
「合宿のピークが過ぎると、芝はある程度荒れます。そこで秋は、グラウンドへ直接に播種(はしゅ=種まき)をして、芝を生やします。さらに、雪が積もる冬にも備え、砂を入れて不陸を直して面を整えます。春、不陸に雪解けの水が溜まって起こる雪腐れの原因を取り除いておきます」(櫻井さん)
櫻井さんがグラウンドへ再び戻る春には、直径3㎝ほどの筒を等間隔に差し、土を抜き取る「コア抜き」作業が待っている。コア抜きは、根の密度が詰まり過ぎないように穴を開け、空気を入れて水抜けも良くし、病気の発生リスクを抑えるのだという。
菅平の芝にも影響を与える、昨今の異常気象
「菅平は標高が1400m以上あるので、芝の種類は、春と秋に育つ、いわゆる“冬芝(寒地型)”を使っています。冬芝が適正に育つ気温は、15~20度。以前は問題がなかったのですが、最近の異常気象で菅平の気温も高くなっていて、育てることが難しくなっています……」(櫻井さん)
夏の酷暑と集中豪雨は、従来の芝の生育環境も大きく変えようとしている。スポーツ合宿の“聖地”を象徴する「アンダーアーマー菅平サニアパーク」の芝を護り育てる、櫻井さんと下平さんの研鑽の日もまだまだ続くのだ。
「令和10年には、長野で国体が行われます。その時は『アンダーアーマー菅平サニアパーク』のメイングラウンドと4面のサブグラウンドが使用される予定です。現在のグラウンドの維持管理は最低限のレベルでやっていますが、国体に向けてグレードアップさせる取り組みが求められています」(下平さん)
「皆さん意外に思われるそうですが、飲み残したジュースやスポーツドリンク、氷を芝に捨てると、それだけで枯れてしまいます。踏んでも、転がっても、ここの芝は丈夫ですが、糖分や塩分には繊細なんです。覚えておいていただけると、助かります」(櫻井さん)
上田市とアンダーアーマーが取り組む、「アンダーアーマー菅平サニアパーク」および「アンダーアーマー菅平アリーナ」の活動のレポートは、今後も随時、発信していきます。
取材・文/大田原 透 撮影/日広(池田吉則、花岡秀崇、松倉慎)