2024.09.03
みんなのアフターマッチファンクション、「菅平サマーフェスティバル2024」。


「菅平サマーフェスティバル2024」は、菅平高原の中心に位置する「アンダーアーマー菅平アリーナ」にて8月10日と11日の2日間開催された。
キッチンカーが並び、花火も用意され、高校ラグビー部の合宿シーズンピークの菅平を彩った。
ラグビーには、“アフターマッチファンクション”というカルチャーがある。試合を終えたチームはユニファームからジャケットに着替え、審判や関係者も交えて互いを称え合う交流会を開催する。そのカルチャーは、試合終了後に敵味方が存在しない“ノーサイド”の精神を具現化したものと言える。
そんなアフターマッチファンクションを、菅平(長野県上田市)に来た全ての人と分かち合うイベントが「菅平サマーフェスティバル2024」である。年に1度スポーツ合宿の聖地に集い、ラグビー選手のみならず、選手の家族も関係者も再会を喜び合うことを目的に開催されている。
「開催は、今年で2回目です。コロナ禍の4年にわたる菅平での合宿制限が、昨年やっと終わりました。以前は毎年のように菅平に集って、合宿を通じて子どもたちの成長を見守ってきた私たち保護者が、生徒や学生、地元に何かをしたいと考えました。そこで“花火を打ち上げる”計画を立て、去年第1回となるサマーフェスティバルを開催しました」
と語るのは、「菅平サマーフェスティバル2024」の実行委員会の安藤健司さん。普段は住宅の施工やリフォームを扱う会社に勤務するビジネスパーソン。安藤さんの横で笑みを絶やさないのは、同じく実行員会の平坂公太さん。ふたりとも横浜在住のご近所どうし、子どもが同じラグビーチームに所属していたことが縁で、このイベントを企画したという。


ふたりの子どもが同じラグビーチーム(横浜ラグビースクール)だったという安藤健司さん(写真左)と平坂公太さん(写真右)。平坂さんは、横浜の関内で花屋さんを営む経営者だ。
ラグビーファミリーの、年に1度の同窓会!
「まさに、二人でお酒を飲みながらの話からスタートしました(笑)。花火を上げるので、菅平の人にも協力を要請して、実行委員に加わっていただきました。さらに菅平で出会ったラグビー関係者で飲食店をやっている方や、自分たちの知り合いも巻き込んで、キッチンカーブースを作りました」(平坂さん)
「菅平サマーフェスティバル2024」の目的をふたりに聞くと、“ラグビーの普及と競技の継続、地域活性”という生真面目な返答をされたが、よくよく話を聞き、会場を歩くと、“ラグビーファミリーの年に1度の同窓会”という言葉がダンゼン似合う。
「2回目の今年は、選手の交流会をやろうという話になりました。この時期は高校の合宿のピークで、長野県のラグビー協会にも協力をお願いして調べたところ、127校が来ることが分かりました。全ての学校のラグビー部に交流会への参加を呼び掛け、今回5校が参加してくれることになりました」(平坂さん)


会場のゲートは横浜の企業から提供。都内の恵比寿や赤坂に展開する会員制料理の「大阪とらふぐの会」をはじめ、菅平のジビエを食材にした鹿タコスなど、オリジナリティ溢れる会場は、安藤さんや平坂さんたちラグビーファミリーの結束感ならでは。
辛さを乗り越え、ラグビーやチームの素晴らしさを感じて欲しい。
「三重から2校、愛知から2校、静岡から1校はいずれも公立高校で、いわゆる強豪校でありません。ラグビーは素晴らしいスポーツですが、同時に練習が辛いのも確かです。高校からラグビーを始めて、頑張って続けている生徒たちに、交流会を機にモチベーションを高めてもらえたらと願っています」(安藤さん)
ふたりに話を聞くと、いわゆる強豪校では、試合後の交流会であるアフターマッチファンクションが行われることも多いが、全ての学校が行うワケではないという。ラグビーを通じた他校の生徒たちとの交流の場の提供は、むしろ強豪校ではないラグビー部にとって歓迎される提案だったのだとか。
「監督や顧問の先生たちは、生徒たちがキツイ練習を何とか乗り越えて、ラグビーやチームの素晴らしさを感じて欲しいという強い思いがあることも知りました。今回、交流会に参加してくれる学校の課題が解ったことで、私たちが取り組むべき競技の普及や継続というテーマの方向性に改めて気づきました」(平坂さん)


交流会のゲストは、7人制ラグビー元日本代表の林大成さん。東海大学ラグビーフットボール部主将から、キヤノンイーグルス(現・横浜キヤノンイーグルス)でプレー。2018年から7人制ラグビーの男子日本代表として活動した後、2024年8月に代表引退を表明。後に、ラグビーに特化した動画メディア「らぐびーくえすと」の運営をスタート。
交流会のゲストはセブンズ元日本代表、林大成さん!
「菅平サマーフェスティバル」の交流会の会場「アンダーアーマー菅平アリーナ」には、夕食を終えた5校の生徒たちが送迎バスで続々とやってくる。交流会のゲストは、7人制ラグビー元日本代表の林大成さんである。
「2018年からセブンズの日本代表として、チームに属さずにオリンピック出場を目指してきました。結果的には、東京もパリも最終選考で日本代表入りから漏れました。皆さんと私とはラグビーの目標もその理由も違いますが、共通して言える大きな価値は、ラグビーを通じて仲間ができることです。何かに熱中したり、それを語り合える仲間がいることは、スポーツに限らず人間関係において一番の財産です」(林さん)
交流会の時間は1時間。最初はぎこちない生徒たちのアイスブレイクに始まり、林さんは会場の雰囲気を徐々に変えてゆく。ミニゲームを通じて見知らぬ生徒が言葉を交わし、緊張を解いたころで、自身のラグビーへの取り組みを生徒たちに平易な言葉で語りかける。
「スポーツは、失敗を含め、さまざまな経験を積めます。チームや個人の目標を達成できなくても、もしくは花園(全国高等学校ラグビーフットボール大会)で優勝しても、結果は結果でしかありません。そこで得た経験をチームや個人として、自分たちのものとして掴んで欲しいと願っています。私は日本代表を引退しますが、今までの経験以上の経験を作れるようにするので、お互い頑張っていきましょう!」(林さん)


「菅平サマーフェスティバル2024」の活動には、ゲストの林さんだけでなく、社会人ラグビー「ジャパンラグビーリーグワン」の玉塚元一理事長も賛同。玉塚理事長との縁は、菅平サマーフェスティバルの協賛企業でもある横浜の老舗食肉加工メーカー「江戸清」の高橋伸昌会長が繋いでくれた。リーグワンの参加チーム、林さん、そしてサポート企業アンダーアーマーから協賛グッズが提供された。
「菅平はラグビーに浸り、特別な経験を得られる場所です」
交流会が盛り上がってきたところで、顧問の先生にも話を聞くことに。取材に応えていただいたのは、静岡県立科学技術高校のラグビー部監督、黒田保則先生。科学技術高校は、静岡市と清水市の合併に伴い、2つの工業高校が統合して16年前に開校されたという。
「部員のほとんどは、高校からラグビーを始めます。ですので、強いカラダをきちんと作って、自分たちのカラーを出せるチームを目指しています。1年生にとって、貸切バスに乗って菅平に着いた日にゲームをやり、疲れ切って宿の食堂に行くと、凄いカラダの他校生が大盛りのご飯を食べていて……。ある意味ショッキングな体験ですが、ラグビーを志した生徒たちが、ラグビー以外のところでも友達の輪が拡がればと思って参加しました」(黒田先生)
自身もラガーマンであり、監督として長年生徒を指導してきた黒田先生にとって、菅平はラグビーに浸り、特別な経験を得られる場所だという。確かに、日本代表が練習を行う「アンダーアーマー菅平サニアパーク」をはじめ、高原には100を超えるグラウンドがあり、筋骨隆々のラガーマンたちが街を闊歩する光景は、菅平だけの特別な景色だ。


静岡県立科学技術高校ラグビー部監督、黒田保則先生(保健体育)。「今回集まったチームに、3月の台湾遠征で友達になった生徒がいるそうです。菅平での再会も、彼らのモチベーションになっているはずです。初めての参加でしたが、生徒たちはとてもいい顔をしています。後で反応を聞いてみたいと思います」
菅平で、また会おう。
「『菅平サマーフェスティバル』の基本は、交流を通じた選手同士の絆づくりです。同時にもう一つの目的として、菅平の価値を上げることも掲げています。全国から800ものチームが集って、秋の花園へのチャレンジのために合宿をする。そんな場所は菅平だけです。選手だけでなく、保護者もできるだけ長く菅平に滞在して交流できたらと願っています」(平坂さん)
「実は私は、ラグビー未経験者なんです(笑)。でも親にとって、菅平は特別な場所です。1年に1回来ると、息子が幼いころからの横浜ラグビースクールというチームの仲間、そしてその親たちに、また菅平で会えるのです」(安藤さん)
「安藤さんの息子さんは社会人ラグビーの選手です。うちに息子は3人いて、長男は社会人ラグビー、次男は群馬の強豪校の主将、中学3年の三男は9月の大会での横浜ラグビースクール3連覇を目指しています。私自身も横浜ラグビースクール出身で、家族でラグビー漬けです」(平坂さん)


事務局の安藤さんは、その想いが高じて菅平に別荘を購入したのだとか。安藤さん自身が建築業界ということもあり、購入した古民家を自分でリフォームしたそう。
ラグビーを通じた人々の交流があり、子どもたちの成長を応援できる場所としての菅平。「菅平サマーフェスティバル」は、菅平に集う人たちの交流の輪を拡げ、さらにラグビーと菅平を好きになってもらいと願う人たちに支えられて運営されている。
20時30分、予定されていた花火は、太郎山の山頂に居座った深い雲に遮られ、人々の目に触れることなく交流会は終了となった。また来年のチャレンジだと安藤さんも平坂さんも苦笑いだったが、後日、彼らから嬉しいニュースが届く。
それは、交流会の翌日、参加したチームで練習試合を実施したとの報せ。「菅平サマーフェスティバル2024」は、菅平を訪れるみんなのアフターマッチファンクションとして、これからも歩み続ける。それでは、菅平で、また会おう!
上田市とアンダーアーマーが取り組む、「アンダーアーマー菅平サニアパーク」および「アンダーアーマー菅平アリーナ」の活動のレポートは、今後も随時、発信していきます。
取材・文/大田原 透 撮影/池田吉則(日広)